1月15日、時刻は14:30。陽が早くも傾き始め、山々がその色に染まり始めた頃、私が到着したのは、中国地方の山間部のとある野池である。
全周は400m程、最深部は10m未満のごくごく一般的な農業用貯水池である。ここは地元アングラーを中心に、ハイシーズンには多くの釣り人で賑わう大変人気のあるフィールドとして知られる場所。私自身も、以前にも何度か訪れたことがあり、そのいずれの時もプレッシャーは高いながらもとても反応の高い釣りができた。平均サイズも素晴らしい。
この日、天候は晴れ。しかし、冬型の気圧配置によって北風が上空を元気よく駆け回り、小さく千切られた薄雲が素速く流れていく。さらに時折、雪がちらつく状況。私の頬はその感覚をほとんど失い、体感温度は0℃を下回る。周囲の木々も色を失った葉を落とし、フィールドの表面はほぼ無防備に風を受けている。表層水温は7℃、水質はスーパークリアで全く澱みがない。水中のバクテリアも死滅し、水面には全くと言っていいほど生命感がない。いよいよ本格的な冬を迎えようとしている。
この季節、既にバスの活性は落ちきっている。特にこのような比較的小規模な場所では、そのシャローエリアでバスの姿を確認することはまず難しい。天候次第のところもあるが、基本的には真冬の釣り方が基本的な手段となる。私は、この初冬といわれる最低水温期へと向かう季節が、最もバスを手にすることが難しいシーズンだと考えている。とにかく、バスが口を使わない。
この頃、もしバスを手っ取り早くキャッチしようとするならば、やはり居場所が限定しやすい「野池」が第一候補となる。そして、その目安となる居場所というのは、「水深を確保しているカバー」あるいは「最深部」の二つがポイントとなる。温排水のあるインレットや温水が通るチャンネルをもつフィールドであればまたアプローチが異なるが、基本的にはその二つの場所を選択し、念入りに探ることが重要となる。
しかも、今回このフィールドを選択した理由は、周囲のシャローエリアは全て緩斜面で「水深を確保しているカバー」がなく、私が狙うべきは「最深部」の一つに限定することができるからである。加えて、以前このフィールドに来たときに、60cm近くあろうかという超大型の野池バスをシャローエリアで確認していたからである。その時はもちろん、ライトリグに持ち替えてそのバスにアプローチしたが、全く相手にされず深みへと逃げられた。その姿を悔しく見送ったが、その後もしばらく手は緊張で震え続けた。それほど巨大なバスだった。
今日、再びそのバスと出会えるか。新春初回の釣行として、私はこのフィールドを選択した。
タックルはシンプルにベイトワンセットのみ。ミディアムヘビーのロッドにハイギヤのリールで、バイブレーション一択。ロッドのパワーは強めだが、リフト&フォールを多様する場合は、ミディアムより少し堅めのロッドの方が操作しやすい。ラインスラックが過剰なフォールスピードを与えてしまうため、それを素速く奪うためにリールはハイギヤ設定のものを選択。予備のルアーとして、フックカバーをつけたメタルバイブレーションを一つだけポケットに入れた。
まずは、護岸の北側から撃っていく。キャストはフルパワーで、できるだけ脈を上げられるように。体が少しでも体温を維持できるよう張り切ってキャストする。フィールドには私一人であるし、恥ずかしいこともない。
狙うバイトポイントは、堰堤が湖底に刺さる場所。つまり、このフィールドにおける最深部である。キャスト後のフォールは、まずフリーフォール。そして、着底寸前にサミングを入れてバイトを拾う。着底後は、すぐに強めのリフトを入れ、初速を捕らえてからカーブフォール。これを繰り返しながら最深部まで探っていく。リフトの詳細は、正面からほぼ垂直まで約90度の範囲で行い、決してスローではなくとても素速いもの。その後、再びティップを正面に戻して加速度のないカーブフォールでバイトを待つ。
リフトでリアクションバイトを誘い、カーブフォールで喰い気を狩る。それをひたすら繰り返し、冬のビッグバスを探す。これを続けることで、今まで私は多くの魚と出会えてきた。この日も、北側から南側まで約1m間隔で探っていった。
そして、釣行は1時間ほど経過。
普段は高反応な釣りが楽しめるフィールドだったとしても、それでもやはり冬バスのバイトは遠い。私の気持ちとともに陽は傾き、体温も失っていく。気づけば、南側の堰堤隅を折り返し、再び堰堤の中央部を迎えようとしていた。と、その時、
「ん?このコースは先ほど通したはずだが。」
リフトで乗り越えただけだったのであろう。回収したルアーのフックに、緑鮮やかな水藻がかかっていた。この季節に似つかわしくない新鮮な生きた水藻は、生命感の証。生命維持のため必要とする物質は異なれど、この周囲には必ず魚がいる。このコース上にリフト一つ分、ほんの僅かに生きたエリアがあったのだ。
すかさず、全く同じコースへキャスト。今度はより丁寧に通すため、リフト角度を若干下げる。続いて、カーブフォールへと意識を集める。このワンチャンスを拾わなければ。そして、間もなく堰堤の延長上、最深部ボトム付近へルアーが届く。どうか。
『クンッ』
カーブフォールの着底寸前、明確にティップが入る。「来たッ」。心で叫び、脳内の全てが一気に走る。ようやく来た。フッキングと同時に、心地よい重量感がバットに宿り、その重みがランダムな周期で動く。バスだ。しかも、サイズが良いと明確にわかる。私のテンションは振り切れ、ティップを下げたままほぼゴリ巻きで魚を寄せる。そして、間もなく水面に現れたバスは体を硬直させたまま、全く抵抗せず、私の親指を受け入れた。
色白で針傷のないとても綺麗な、グッドコンディションのバス。喰い気を感じるバイトであったことと合わせて、多少のベイトは捕食しているようだ。口内の組織は薄ピンクで、体幹もほぼ硬直しており、冬を耐えていた様子。他の魚たちと暖をとっていたのだろうか。そこへおいしそうな小魚がゆっくり目の前に来たのだろう。フロントフックは下顎外、リアは上顎内というフッキングの様子からも、真横からルアーをしっかり捕らえたことがわかる。目標と定めていたサイズには遠いが、大変満足のいくサイズ。私の今年の初バスであり、正直に嬉しい。よかった。
そして、その姿を写真に収めた後、素速くリリース。尾ビレを振る後ろ姿を満ちた思いで見送る。ありがとう。今年も良い釣りができそうである。初詣を釣りに置き換えるなら、まさに今日。釣りの神様に感謝である。
その後、同コースを何キャストかしてみた。しかし、それ以上反応はなく、先ほどのことが貴重なワンチャンスであったと知った。そのピンポイントに魚は集っていると思われるのだが。
陽が周囲の山々に隠れる頃、私はフィールドを後にした。
【今回使用したタックル】
ロッド:エバーグリーンテムジンエアドライバー66MH
リール:メタニウムMg(HG右ハンドル)
ライン:サンラインFCスナイパー(12lb)
ルアー:ジャッカルTN60(HLハス)
フック:がまかつトレブルRB-MH(#6/リア#8)